45 あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたずらになりぬべきかな


藤原伊尹 (これただ/これまさ)・謙徳公
公卿。右大臣藤原師輔の長男で、妹の中宮・安子が生んだ冷泉天皇、円融天皇が即位すると栄達し、摂政・太政大臣にまで上り詰めた。

現代語訳
わたしが死んでしまっても、可哀想だと言ってくれそうなひとがいるとは思えないまま、わたしは一人で空しく死んでしまうのでしょうか。

文法・語
「あはれ」-感動詞で、「かわいそうに」の意
「と」-引用の格助詞
「も」-強意の係助詞
「べき」-当然の助動詞「べし」の連体形で、「…はずの」の意
「思ほえ」-ヤ行下二段の動詞「思ほゆ」の未然形
「で」-打消を表す接続助詞で、「…ないで」の意
「いたづらに」-「無駄である」の意を表すナリ活用の形容動詞「いたづらなり」の連用形。「身のいたづらになり」ではかなく無駄な死に様を表す 「ぬ」-強意を表す完了の助動詞
「べき」-推量の助動詞「べし」の連体形。「ぬべき」で「きっと…にちがいない」の意
「かな」-詠嘆の終助詞
※『拾遺集』によると、付き合っていた女が冷たくなり、ついには相手にしてもらえなくなったという状況で詠まれた歌とある。