54 忘れじのゆく末まではかたければ 今日を限りの命ともがな


儀同三司母・高階貴子 < 女流歌人。女房三十六歌仙。藤原伊周の母。

現代語訳
忘れはしまいとおっしゃるお言葉は、遠い未来まではあてにしがたいので、その言葉を聞いた今日限りの命であってほしいのです。

文法・語
「忘れじ」-夫、藤原道隆の言葉であり、主語は一人称であるため「じ」は打消意志の助動詞。「私(道隆)は、決してあなた(貴子)を忘れないつもりだ」の意。「の」-連体修飾格の格助詞で、「…という…」
「まで」-限度を表す副助詞
「かたければ」-「動詞の已然形+接続助詞“ば”」で順接の確定条件
「今日」-道隆が「忘れじ」と言った日
「と」-引用の格助詞
「もがな」-願望の終助詞で「~であってほしい」の意
※『新古今集』の詞書に「中関白通ひそめ侍りけるころ」とあり、道隆が儀同三司母の屋敷に通いはじめたころ、すなわち、新婚当初に詠まれた歌であることがわかる