55 滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ


大納言公任・藤原公任
公卿・歌人。関白太政大臣藤原頼忠の長男。

現代語訳
水の流れが絶えて滝の音が聞こえなくなってからもう長い月日が過ぎてしまったが、その名声だけは伝わって、よく世間にも知れ渡っていることだ。

文法・語
「ぬれ」-完了の助動詞「ぬ」の已然形
「ど」-逆接の確定条件を表す接続助詞で、「…けれども」の意
「名」-評判
「流れ」-(評判が)広まること
「こそ」-強意の係助詞
「なほ」-それでもやはりの意を表す副詞 「けれ」-詠嘆の助動詞「けり」の已然形で「こそ」の結び
※縁語(“滝・絶え・流れ”、“音・聞こえ”)
※「た」および「な」で頭韻を踏んでいる

大覚寺 MAP
「滝」は『拾遺集』の詞書から、大覚寺にあった人工の滝。大覚寺は、もともと嵯峨天皇(796~842)の離宮として造営され、後に真言宗の寺院となった。現在、大覚寺の滝跡はこの歌にちなんで“名古曽(なこそ)の滝跡”と呼ばれおり、滝が復元されている。