50 君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな


藤原義孝
公家・歌人。摂政・太政大臣・藤原伊尹の三男(または四男)。中古三十六歌仙の一人。子に藤原行成。

現代語訳
あなたのためなら捨てても惜しくはないと思っていた命でさえ、あなたと結ばれた今今となっては、(あなたと逢うために)できるだけ長くありたいと思うようになりました。

文法・語
「が」-連体修飾格の格助詞。「君がため」で「彼女のため」の意。『後拾遺集』の詞書によると義孝が「女のもとより帰りてつかはしける」とあり、逢瀬をとげて帰宅した後に詠まれた歌であることがわかる
「し」-過去の助動詞「き」の連体形。「惜しからざりし」は「惜しくなかった」の意
「さへ」-添加の副助詞で、「~までも」の意
「もがな」-願望の終助詞で「~であればいいなあ」の意
「と」-引用の格助詞
「ける」-詠嘆の助動詞「けり」の連体形で初めて、気づいたことを表す