30 有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし


壬生忠岑(ただみね)
歌人。三十六歌仙の一人。

現代語訳
あなたと別れたあの時も有明の月がつれなく見えた。冷たく思えた別れの時から、夜明けの暁ほど憂鬱なものはない。

文法・語
「有明の月」-夜更けに昇ってきて、夜明けまで空に残っている月のこと。満月を過ぎた十六夜以降の月
「の」-主格(連体修飾格という説もある)の格助詞
「つれなく」-「冷淡だ・無情だ・平気だ」の意
「し」-体験回想を表す過去の助動詞「き」の連体形
「より」-起点を表す格助詞。「~の時から」の意
「あかつき(暁)」-「明時(あかとき)」の転で、夜明け前の暗い状況。暁→曙・東雲→朝ぼらけの順で明るくなる
「ばかり」-程度の副助詞で「~ほど」の意
「憂き」-形容詞「憂し」の連体形で「つらい・憂鬱だ」の意