95 おほけなく憂き世の民におほふかな わが立つ杣にすみ染の袖


天台宗の僧。歴史書『愚管抄』を記した。父は摂政関白・藤原忠通。

現代語訳
身のほど知らずと言われるかもしれないが、(この悲しみに満ちた) 世の中の人々を墨染の袖で包みこんでやろう (比叡山に出家したこのわたしが)

文法・語
「おほけなし」―ク活用の形容詞連用形。「身分不相応である・身の程をわきまえない」」の意
「うき世」―「憂き世」で、つらいことの多いこの世
「民」―世間一般の人々
「おほふ」は―「覆う」で墨染の衣。すなわち仏の功徳で覆うこと
「かな」―詠嘆の終助詞
「杣」―杣山。すなわち、材木を切り出す山。ここでは比叡山のこと
「墨染の袖」―僧衣。また「おほふかな」へ続く倒置法。「墨染」は「住み初め」との掛詞
※この句は、比叡山の根本中堂(こんぽんちゅうどう)を建てるときに最澄(伝教大師)が詠んだ「…我  が立つ杣に冥加あらせ給へ(私が入り立つこの杣山に加護をお与えください」という歌をふまえている