74 憂かりける人を初瀬の山おろしよ 激しかれとは祈らぬものを


官人・歌人。宇多源氏。大納言・源経信の三男。従四位上・木工頭。

現代語訳
私に冷たかった人の心が変わるようにと、初瀬の観音さまにお祈りしたのだが、初瀬の山おろしよ、お前のようにあの人の冷たさがいっそう激しくなれとは祈らなかったではないか。

文法・語
「憂かり」-ク活用の形容詞「憂し」の連用形。「憂し」は思うようにならない、自分の愛に応えてくれないの意
「山おろし」-山から吹き下ろす激しい風
「よ」-呼びかけの間投助詞
「ぬ」-打消の助動詞「ず」の連体形
「ものを」-逆接の確定条件を表す接続助詞
※第二句には句割れがあり、「憂かりける人を」は「祈らぬものを」にかかり、「初瀬の」は「山おろしよ」にかかる。第三句は字余り

初瀬 MAP
現在の奈良県桜井市の地名で、初瀬観音(長谷寺)がある