32 山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり


春道列樹(つらき)
歌人。物部氏の一族。六位・壱岐守
現代語訳
山中を流れる川に風がかけたしがらみ(流れ止めの柵)は、完全に流れきらずにいる紅葉だったのだなあ。

文法・語
「やまがは」-、山の中を流れる川。詞書に「志賀の山ごえにてよめる」とあるので、この山川は京都から大津へと抜ける山中の川
「に」-場所を表す格助詞
「の」-主格の格助詞。「風」が擬人化されている
「たる」-動詞の連用形に接続しているので、完了の助動詞「たり」の連体形
「しがらみ(柵)」-川の流れを堰き止めるために、川の中に杭を打って竹を横に張ったもの。紅葉を柵(しがらみ)に見立てている
「も」-強意の係助詞
「あへ」-「動詞+あへ」で「完全に~する」の意
「ぬ」-打消の助動詞の連体形
「なり」-断定の助動詞
「けり」-詠嘆の助動詞