51 かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを


藤原実方朝臣
貴族・歌人。左大臣・藤原師尹の孫、侍従・藤原定時の子。中古三十六歌仙の一人

現代語訳
「こんなにも想っている」とさえ言えないのですから、ましてや伊吹山のさしも草が燃えるように、私の思いもこんなに激しく燃えているとはあなたはご存知ないでしょう。

文法・語
「かく」-このようにの意
「と」-引用を表す格助詞
「だに」-程度の軽いものをあげて、重いものを類推させる副助詞。「~でさえも」の意
「え」-否定の語(ここでは「やは」)をともなって不可能を表す呼応の副詞
「やは」-反語の係助詞。結びは「言ふ」で連体形。「えやはいふ」で言うことができないの意
「いぶき」-掛詞で上を受けて「言ふ」、下にかかって「伊吹」を表す。伊吹は伊吹山のこと
「さしも草」-モグサ。下の句の「さしも」にかかる序詞
「さ」-そのようにの意
「し」-強意の副助詞
「も」-強意の係助詞
「な」-詠嘆の終助詞
「思ひ」-「ひ」は「火」との掛詞。「さしも草」「燃ゆる」「ひ(火)」は縁語「思ひを」は「知らじな」にかかる倒置法

伊吹山 MAP
美濃国(現在の岐阜県)と近江国(現在の滋賀県)の国境にある山