75 契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり


公家・歌人。父は右大臣藤原俊家。藤原道長の曾孫。従五位上左衛門佐。

現代語訳
お約束くださいましたお言葉を、よもぎの葉に浮かんだ恵みの露のように、命と思って頼みにしておりましたのに、ああ、今年の秋もむなしく過ぎていくようです。

文法・語
「契りおき」-約束しておく。「おく」は露の縁語
「し」-過去の助動詞「き」の連体形
「させも」-さしも草で、よもぎのこと
「露」-恵の露
「て」-逆接を表す接続助詞
「あはれ」-慨嘆を表す感動詞
「も」-強意の係助詞
「いぬ」-「往ぬ」で過ぎるの意
「めり」-婉曲を表す推量の助動詞
※『千載集』の詞書によると、藤原基俊の息子の僧都光覚が、興福寺の維摩会の講師になれるよう藤原忠通(法性寺入道前太政大臣)に頼み、忠通が「私に頼りなさい」と返答した。「なほ頼め しめじが原の させも草 わが世の中に あらむ限りは」という歌の「しめじが原」という語を用いて善処を約束した。ところが、またしても光覚は選に漏れた。これはその私怨を晴らすために贈られた歌