58 有馬山猪名の篠原風吹けば いでそよ人を忘れやはする


女流歌人。女房三十六歌仙。藤原宣孝の娘、母は紫式部。

現代語訳
有馬山(現在の兵庫県神戸市)の近くの猪名の笹原(現在の大阪府北部を流れている猪名川の川辺)に風が吹けば、そよそよと音がしますね。そうよ。どうしてわたしがあなたを忘れたりするでしょう。

文法・語
「吹けば」-「動詞の已然形+接続助詞“ば”」で順接の確定条件。ここまでが、「そよ」を導き出す序詞 「いで」-感動詞で「さあ」の意
「そよ」-掛詞。指示代名詞+間投助詞で、「そのことですよ」という意を表すとともに、擬声語として、笹原がそよそよと音をたてるさまを表す
「やは」-反語の係助詞
「する」-サ変動詞「す」の連体形で「やは」の結び
※後拾遺集の詞書に「かれがれなる男の、おぼつかなくなど言ひたりけるによめる」とあることから、この歌は、自分から離れぎみの男が、「あなたが心変わりしたのではないかと気がかりだ」としらじらしく言ってきたことに対する返答であって、「人」は、相手の男を表す

有馬山 MAP
摂津国の山。現在の神戸市北区にある六甲山系の一部

猪名の笹原
摂津国の猪名川沿いに広がる原野。有馬山と猪名は、いずれも歌枕で、揃って詠みこまれることが多い